「なんとなく、クリスタル」には、表紙のあとの中扉に
1980年6月 東京
と書かれています。
音楽もその時点で東京で流行っていた洋楽が登場します。
もっと正確に言うと、新潮文庫版の後書きで著者の田中康夫は、
『なんとなく、クリスタル』を書いたのは、1980年の5月である。
河出書房の文藝雑誌「文藝」が設けていた新人賞「文藝賞」へ、5月31日の朝、郵送で応募したのだ。
と書いています。
ただし、1980年10月に「文藝賞」を受賞して1981年に単行本化されるときに本文に手を入れられ、そのときに274個だった注が、442個と大幅に増やされました。注をみると明らかに1980年6月以降の情報も追加されています。
書かれた日付けからいうと、登場する音楽は実は1980年代というより、1970年代後半のものが主です。
しかし、これらの音楽が日本で1980年から81年にかけて流れていたときのようすを通して、まさに80年代のはじまりの東京が、この小説にはビビッドに描かれています。