April, 2010

なんとなくクリスタル 音楽ツアー archives for April, 2010.


スティーブン・ビショップ 「オン・アンド・オン」

Stephen Bishop – On and On

由利がベッドでうだうだしている間に

FENの方は、スティーブン・ビショップの 「オン・アンド・オン」に変っている。

この曲はこの朝の由利の気分には合わなかったようで

どうも、朝から調子のくずれる曲が、続けてかかっている。

アコースティック・ギターとマッチョでないちょっととぼけた歌い声、スチールギターの組み合わせはなかなか爽やかで、朝向きだとは思うんですけどね。


Stephen Bishop の “On and On” は1976年発売の “ケアレス Careless” 中の曲で、1977年に全米ヒット。

結局、彼の代表作ともなりました。

スティーブン・ビショップは『なんとなく、クリスタル』の注では

『ケンタッキー・フライド・ムービー』では、なかなかいい役をしていた、シンガー=ソングライター。

と。

『ケンタッキー・フライド・ムービー』なつかしいです。

知る人ぞ知るの、70年代末ならではのすごいぶっとんだオムニバス映画でしたが、スティーブン・ビショップは、かなり際どいお色気女子高生の登場するエピソードで、明るい変態チックな男として完全にお笑いタレントとして登場してました。

ウィリー・ネルソン 「ムーンライト・イン・バーモント」

Willie Nelson – Moonlight in Vermont

ベッドに寝たまま、手を伸ばして横のステレオをつけてみる。目覚めたばかりだから、ターンテーブルにレコードを載せるのも、なんとなく億劫な気がしてしまう。

『なんとなく、クリスタル』のいちばん最初の文ですね。
主人公の女子大生、由利が目覚めるシーン。

当時はターンテーブルにレコードを乗せていたのでした。
CD よりもさらに面倒です。

それで、FENにプリセットしたチューナーのボタンを押してみる。

なんと朝から、ウィリー・ネルソンの「ムーンライト・イン・バーモント」が流れている。

『なんとなく、クリスタル』を有名にした400あまりの注のなかでウィリー・ネルソンは次のように紹介されています。

テキサス生まれのシンガー。従来のC&Wにはない要素を取り入れたカントリー・シンガー。


“Moonlight in Vermont” は、もともとジャズのスタンダード・ナンバー。
Willie Nelson は1978年リリースのアルバム “Stardust” でそれを取り上げています。

名盤 “Stardust” は、Rolling Stone’s 誌が、2003年に過去から現在までの500ベストアルバムを選んだ際に257位にランクイン。

2008年には発売30周年を記念してボーナストラック付きの特別盤が発売されています。

1980年6月

「なんとなく、クリスタル」には、表紙のあとの中扉に

1980年6月 東京

と書かれています。

音楽もその時点で東京で流行っていた洋楽が登場します。

もっと正確に言うと、新潮文庫版の後書きで著者の田中康夫は、

『なんとなく、クリスタル』を書いたのは、1980年の5月である。

河出書房の文藝雑誌「文藝」が設けていた新人賞「文藝賞」へ、5月31日の朝、郵送で応募したのだ。

と書いています。


ただし、1980年10月に「文藝賞」を受賞して1981年に単行本化されるときに本文に手を入れられ、そのときに274個だった注が、442個と大幅に増やされました。注をみると明らかに1980年6月以降の情報も追加されています。

書かれた日付けからいうと、登場する音楽は実は1980年代というより、1970年代後半のものが主です。

しかし、これらの音楽が日本で1980年から81年にかけて流れていたときのようすを通して、まさに80年代のはじまりの東京が、この小説にはビビッドに描かれています。